「Dual-Prompt Approach」解説|二段階のプロンプトで高度な回答を獲得

プロンプトエンジニアリング

はじめに

近年のAIの発展により、私たちの生活やビジネスにおいて、大規模言語モデル(LLM)を使った応用が増えています。特に、ChatGPTのような対話型モデルが注目を集め、ビジネス文書の作成やプログラミングのサポート、教育ツールとしての利用など、多岐にわたって活用されています。その中でも「プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)」という考え方は、AIとやり取りする際にどう書けば思い通りの出力を得られるかというテクニックとして、非常に重要視されるようになりました。

本記事では、プロンプトエンジニアリング手法の一つとして紹介されている**「Dual-Prompt Approach(デュアルプロンプトアプローチ)」**について詳しく解説します。
AIへの指示をどのように分割・組み合わせるのか、どのように利用すればより正確な回答が得られるのかを具体例を交えて分かりやすくご紹介しますので、プロンプトエンジニアリングの新たな発想を探している方は、ぜひ参考にしてください。

Dual-Prompt Approachとは何か

概要

Dual-Prompt Approach は、名前のとおり「2つのプロンプト(命令文・指示文)」を組み合わせることで、AIからより良質な回答や情報を得ようとする手法です。単一のプロンプトで全てを完結させるのではなく、あえて2段階に分けることで、AIに必要な「知識生成(Knowledge Generation)」と「具体的回答(Task Execution)」を分割して行わせます。

一般的なAIとのやり取りでは、「こんな質問をする → AIが答える」という一往復のやり取りだけを想像しがちです。しかし、大規模言語モデルの持つ潜在能力をもっと引き出すためには、まずAIに関連知識を生成させ、次にその知識を活用して最終回答を得るというプロセスが有効になる場合があります。

なぜ2つに分けるのか

AIは一度に膨大な情報を処理できますが、「どのようなステップで知識を取り出し、それを最終回答に結びつけるか」は必ずしも自動的に最適化されるわけではありません。単一の指示で「必要な知識の収集から、結論の導出までをすべて行って!」と求めると、情報の混在や抜け漏れが起こりがちになります。

そこで、「知識を生成するフェーズ」「具体的なタスクを行うフェーズ」 を明確に分けるのが「Dual-Prompt Approach」です。

  • プロンプトA:必要な関連知識や前提情報をAIに出力させる
  • プロンプトB:その知識を元に実際の回答や文章を作成させる

Dual-Prompt Approachの流れ

ステップ1:知識生成(Generated Knowledge Phase)

最初に行うのは「関連知識を抽出・生成してもらう」ことです。ここではまだ最終的な回答を求めるのではなく、「この質問に答えるために必要な前提知識・背景情報を教えてください」 といった形でAIに指示を出します。

  • ユーザーが与えるプロンプトAの例
    「以下のトピックについて考えるために、必要となる関連知識やポイントをリストアップしてください。余計な情報は省き、なるべく簡潔にまとめてください。
    トピック:『江戸時代の文化・政治体制と現代社会への影響』」

AIはこれを受け取り、江戸時代の基礎知識や政治体制の変遷、特徴的な文化要素など、回答に役立つ“素材”を文字情報として出力してくれます。これが「知識生成」のフェーズです。

ステップ2:回答生成(Task Execution Phase)

次に、ステップ1で得られた知識を活用して、本来ユーザーが求めていたタスクを完了させます。

  • ユーザーが与えるプロンプトBの例
    「先ほどリストアップしてもらった知識を参考にして、現代社会への影響を具体的に論じる短いレポートを200文字程度で書いてください。」

ここでは、AIは自分が先ほど生成した知識を参照しつつ、ユーザーが求める最終的なアウトプット(短いレポート)を作成します。ユーザー側から見ると、2段階のやり取りでより精度の高い、内容の充実した回答が得られるようになるというわけです。

具体的な活用シーン

複雑なレポートや論文要約

論文要約やレポート作成の際、まずAIに要約の基礎情報を抽出・整理してもらい、次にそれを元にユーザーが望む形式やスタイルでまとめさせるといった使い方が可能です。

  • プロンプトA(知識生成)
    「以下の論文(URLまたは内容)を読み込んで、主要なポイントを5つリストアップし、それぞれに短い解説を付けてください。」
  • プロンプトB(回答生成)
    「先ほどリストアップした5つのポイントを元に、A4用紙1枚分の要約を作成してください。大学生が読んでもわかりやすい日本語にしてください。」

プログラミングヘルパー

コードを書いていて詰まった時、まずAIに関連関数や使用例をリストアップさせ、そこからピンポイントで実装するコードスニペットを生成させるといったステップが考えられます。

  • プロンプトA(知識生成)
    「PythonでWebスクレイピングをするときに便利なライブラリの名前と、その使い方の概要を教えてください。代表的なメソッドや注意点も含めて3つほどリストアップしてください。」
  • プロンプトB(回答生成)
    「先ほどのライブラリの中からrequestsとBeautifulSoupを使って、あるWebページから記事タイトルだけを抽出するサンプルコードを短めに書いてください。Python 3.8以降を想定。」

こうすることでAIがまず全般的な知識を整理し、その後に具体的タスクをやりやすくなります。

クリエイティブライティング

短編小説やキャラクター設定などの創作においても、まず世界観やキャラクター情報を生成してもらい、次のステップで具体的なエピソードやあらすじを作らせる、という二段階アプローチが効果的です。

  • プロンプトA(知識生成)
    「ファンタジー世界を舞台にした物語を作りたいです。まずは主要な3つの国と、それぞれの特徴(政治体制、文化、地理)を簡単に設定してください。」
  • プロンプトB(回答生成)
    「その設定を踏まえて、主人公が最初に冒険に出るきっかけとなるエピソードを短めに書いてください。1,000字以内で、中世ヨーロッパ風の雰囲気を大切にしてください。」

Dual-Prompt Approachを使う際のポイント

明確な目標設定

「なんとなく2段階に分ける」というだけではAIも混乱する可能性があります。ステップ1では具体的に何を得たいのか、ステップ2でどう活用するのかを明確にプロンプトに書いておくとスムーズです。

  • 例:
    • ステップ1:「関連知識」「補足説明」「参考データ」
    • ステップ2:「本番の回答」「まとめ」「提案」

コンテキストを維持する

ChatGPTのような対話型AIの場合、同じセッション内であれば過去のやり取り(コンテキスト)を参照して回答を導く仕組みになっています。2つ目のプロンプトで**「先ほどの知識を使って」**などと明確に書くことで、AIは以前の回答を踏まえて新しい文章を生成しやすくなります。

モデルの限界とトークン制限に注意

AIが生成するテキスト量が増えれば、その分トークン数も増加します。プロンプトAで大量のデータを生成させてしまうと、APIやチャット画面でのトークン上限に達する場合があります。必要な情報だけをコンパクトにまとめるよう指示することで、トークンを節約しつつ有用な回答を得ることが可能です。

ハルシネーション(幻覚)リスクへの対策

大規模言語モデルは、自信満々に誤情報を回答してしまう(いわゆる「ハルシネーション」)ことがあります。特にステップ1(知識生成)でうっかり間違った情報を含んでいても、ステップ2がそれを鵜呑みにして答えを拡張してしまう恐れがあります。
人間の側でステップ1の回答をチェックするプロセスを組み込み、怪しい部分があれば修正させるといった工夫が望ましいでしょう。

メリットとデメリット

メリット

  1. 情報とタスクを切り分けられる
    AIが「まずは知識整理→次に本番」と段階的に作業することで、回答の質が向上する可能性が高まります。
  2. 誤り検出が容易
    ステップ1でAIの知識を確認し、問題があれば修正や追加情報を与えられます。結果的にステップ2での最終回答の正確性を高められます。
  3. 多彩な応用が可能
    学術研究のサーベイからプログラミング、文章制作に至るまで、ほとんどあらゆる分野で利用できます。

デメリット

  1. やり取りが増える
    2つのプロンプトを用意するため、単一のプロンプトに比べて手間が増えます。また、会話が何往復か必要になる場合もあります。
  2. トークン制限やAPIコスト
    ステップ1で大量のテキストを生成したあと、ステップ2でもまたテキストが生まれるため、合計のトークン消費量が大きくなる可能性があります。
  3. モデルのコンテキスト保持に左右される
    同じチャットセッション内でやり取りしないと、ステップ2の段階でAIが「先ほどの回答」を忘れてしまうことがあります。セッション管理やモデルのコンテキスト上限に注意が必要です。

実践例:歴史レポート作成

以下に、歴史のレポートを書くというシチュエーションを想定した“Dual-Prompt Approach”の流れを示します。
※本例はChatGPTなど対話型AIで行う想定ですが、他のモデルやAPIでも同様のプロセスを踏むことが可能です。

プロンプトA:知識生成

ステップ1(知識生成):

「室町時代の文化や政治体制について、以下の項目を軸にして100〜150文字程度で要点をまとめてください。
- 政治構造
- 文化(芸術、建築、音楽など)
- 武家社会の特徴

今はまだ最終的なレポートは不要で、ポイント整理だけで大丈夫です。」
  • 想定されるAIの回答例
    1. 政治構造:将軍と守護大名の権力関係
    2. 文化:禅宗の影響、茶の湯・花道などの芸術
    3. 武家社会:武力や土地支配が中心。
      (テキストは100〜150文字程度)

プロンプトB:回答生成

ステップ2(レポート作成):

「先ほど整理してくれた室町時代のポイントを踏まえて、この時代の文化がどのように武家社会を支えたのかを中心に、400文字程度の短いレポート文を作成してください。一般の読者向けで、専門用語には簡単な説明も加えてください。」
  • 想定されるAIの回答例
    「室町時代は…(中略)…禅宗の教えが武家の精神文化を形成し、武家社会の結束を強化した。…(400文字程度でレポートが続く)」

こうして、まずは要点のみをまとめ(知識生成)、次にそれを踏まえて本格的な文章化(回答生成)するという二段階のやり取りを行うことで、情報の混在や抜け漏れを減らしながら読みやすいレポートを作成できます。

まとめ

Dual-Prompt Approach は、AIに「必要な知識をまず抽出・生成」させ、その後に「本来の回答やタスクを実行」させるという二段階のプロンプト設計手法です。以下の点が特徴と言えます。

  • プロンプトA(知識生成): 事前知識や関連情報をリストアップ・整理するフェーズ。
  • プロンプトB(回答生成): その知識を活用し、ユーザーが求めるアウトプット(レポート、プログラム、要約など)を生成するフェーズ。

メリットとしては、複雑なタスクを正確に処理しやすくなる、誤りを検知しやすい、さまざまな分野に応用できるなどがあります。一方、デメリットとしてはやり取りが増えることや、トークン制限、モデルのコンテキスト保持が必要になることが挙げられます。

とはいえ、大規模言語モデルの持つ“知識活用”の力を最大限に引き出すうえで、「Dual-Prompt Approach」は非常にシンプルかつ効果的です。開発者やビジネスパーソン、研究者、クリエイターなど、幅広いユーザーがこの方法を取り入れ、効率的に質の高い回答やコンテンツを生成できるでしょう。

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