はじめに
AIが生成するテキストやアイデアを最大限に活用するため、近年急速に普及しているのが「プロンプトエンジニアリング」です。大規模言語モデル(LLM)を使う際、ユーザーは単に質問や指示を投げるだけではなく、どのような形で・どのような手順で書くかを緻密に工夫することで、AIから出力される文章の品質を大きく左右できます。
本記事では、複数のプロンプトエンジニアリング手法を組み合わせることで得られるメリットや具体的な方法を、わかりやすい日本語で丁寧に解説します。
プロンプトエンジニアリングとは
基本的な考え方
プロンプトエンジニアリングとは、AIモデルにどのような指示文(プロンプト)を与えれば、意図した回答を得られやすいかを設計する技術です。たとえば、英語から日本語への翻訳が欲しいとき、ただ「翻訳して」と書くだけよりも、「以下の英語文章を読みやすい日本語に翻訳して、3つのポイントに分けて要約も付けて」と書くほうが、AIがやるべきタスクをより正確に理解できます。
多様な手法がある
プロンプトエンジニアリングには様々なテクニックが存在します。たとえば「Chain of Thought」でAIの思考プロセスをステップバイステップで書き出させたり、「Few-Shot Prompting」でいくつかの例を提示してAIが模倣しやすくしたり、「Zero-Shot CoT」で追加学習なしでも論理的なステップを引き出したり…などなど。
いずれも単体でも有効ですが、これらを上手く組み合わせることで、さらに質の高いアウトプットが得られる可能性が高まります。まさに「Combining Techniques」という発想が重要になるのです。
Combining Techniquesの重要性
単一テクニックの限界
たとえばChain of Thought(思考プロセスを表示させる)だけを使うと、論理的に段階を踏んだ説明が得られる反面、細かなスタイル指定や専門用語の注釈といった部分がカバーしにくいケースがあります。
一方、Few-Shot Promptingだけに頼ると、例示の質や量、あるいは例示に含まれるバイアスによって結果が左右されやすい面があります。
複数のテクニックを組み合わせるメリット
- 多角的にAIを誘導できる
たとえば最初はChain of Thoughtで論理の段階を確保しつつ、最終的な出力スタイルをFew-Shot例示で指定する、といった方法で、精度と表現力を両立させられます。 - 柔軟に課題を解決できる
問題やタスクが複雑であればあるほど、「これだけやっておけばOK」というシンプルなアプローチでは限界があるため、複合技法が効くわけです。 - 誤答のリスクを減らす
AIの回答を段階ごとに確認しながら進めるテクニックを掛け合わせることで、誤りや矛盾を早期に発見して修正ができます。
代表的なテクニックの組み合わせ例
Chain of Thought × Few-Shot Prompting
概要
- Chain of Thought: AIに対して「推論の過程をすべて書いてください」と指示することで、途中計算や思考プロセスを可視化する。
- Few-Shot Prompting: ユーザー側がサンプルの質問や回答を提示し、それをAIが模倣することで望ましい回答スタイルや内容を誘導する。
組み合わせるメリット
- 思考過程の明確化: Chain of Thoughtによって、AIがどのように論理的ステップを踏んだかが可視化される。
- 回答フォーマットの模倣: Few-Shot例示によって、「こんな形式で答えてね」というスタイルがしっかり伝わる。
具体的な例
- ユーザーがまずFew-Shot例示を提示:
例1:
Q: 2+2は?
A(ステップバイステップ):
1) 2と2を足す
2) 4となる
→答え:4
- 続いてChain of Thoughtを利用した本番質問:
Q: 3×3は?
※上記の例を踏まえ、ステップバイステップで計算を示し、最後に答えをまとめてください
このように、最初の例示で「ステップバイステップ表示→最終答え」という流れを示し、本番質問ではChain of Thoughtの形式を踏襲させることができます。
Zero-Shot CoT × 指示の細分化
概要
- Zero-Shot CoT: 追加の学習データや例示なしで、AIに「論理的ステップを出力してほしい」と指示して実行する手法。
- 指示の細分化: 問題やタスクを複数のサブステップに分け、それぞれに対してAIに回答を求めるアプローチ。
組み合わせるメリット
- 学習コスト不要: Zero-Shotなので、ユーザーがサンプルを準備する必要がない。
- 段階的な検証が可能: サブステップごとにAIの回答をチェックしながら、最後に集約できる。
具体的な例
- ユーザーがサブステップを提示:
- まず、与えられた文章の中からキーワードを抽出
- 次に、そのキーワードを使って文章全体をまとめる
- 最後に論理的ステップを含めて結論を示す
- Zero-Shot CoTの指示:
「各ステップを実行する際、思考プロセス(計算や理由付け)を可能な限り詳細に書いてください。そして最終的に3つのステップをまとめた結論を提示してください。」
こうすると、例示なしでもAIが論理的手順と結果を並行して出力しやすくなります。
Dual-Prompt Approach × Few-Shot
概要
- Dual-Prompt Approach: まずAIに「知識を生成させるプロンプト」を与え、次に「その知識を使って本番タスクを遂行させるプロンプト」を与える二段階の手法。
- Few-Shot: 最終回答のスタイルやフォーマットを、小さな例示を通してAIに学習させる。
組み合わせるメリット
- 最初の知識収集を効率化: AIが持つ潜在的な知識を引き出し、それを別のプロンプトで活用することで情報が整理される。
- 例示で回答スタイルを固定: どのような書き方をしてほしいかをFew-Shotで示すため、最終出力が一貫した形式になる。
具体的な例
- プロンプトA(知識生成):
「この課題を解くために必要な背景知識や関連する概念をリストアップしてください。
例: 同じような課題があった場合の解法の例、使うべき数式など。」 - プロンプトB(Few-Shotでスタイル指定):
「先ほどリストアップされた情報を使って、以下の例のような形式で回答を書いてください。- 形式例:
[問題の要約]
[解決方法: ステップ1, ステップ2, …]
[結論]
それでは実際に本番の課題を解いてみましょう:…(課題)」
- 形式例:
実践のコツ:組み合わせを成功させるために
明確なゴールを設定
まず「何のために複数のテクニックを組み合わせるのか」をはっきりさせることが重要です。
- 論理的に正確な回答がほしいのか?
- 文章のスタイルやトーンを統一したいのか?
- 大量の情報を整理・要約してほしいのか?
目的によって、どのテクニックをメインにしてどれをサブに回すかが変わります。
ステップごとの確認
プロンプトエンジニアリングを複合的に行う際は、何度かAIと対話を往復する形になる場合が多いです。一度に全てのステップを詰め込みすぎると、AIの応答が冗長になったり混乱したりする可能性があります。
ステップを一つ終えるごとに回答を確認し、誤りがあれば修正するというサイクルを小刻みに回すのがおすすめです。
トークン数に留意する
複数のテクニックを組み合わせると、どうしてもプロンプトと回答の文章量が増えがちになります。特にAPI利用の場合、トークン上限に注意が必要です。
- 必要ない部分は省略する
- コンパクトに書くようAIに指示する
など、やり取りが長くなりすぎない工夫が必要です。
ハルシネーション対策
AIが誤情報を堂々と返してしまうハルシネーション問題は、複数テクニックを組み合わせても発生し得ます。
- 途中でチェインオブソート(思考プロセス)を出させ、人間がチェックする
- 過剰に専門的な内容を扱う場合は、外部情報とクロスチェックする
といった方策を取り入れると、より安全に活用できます。
実例:複合テクニックでレポート作成
ここでは「科学記事のレポート作成」を想定した例を示します。
- Few-Shot + Chain of Thought
- Few-Shot例示:「短い科学記事要約+論理的根拠の列挙」の形式をサンプル提示。
- 本番問い合わせ: Chain of Thoughtで「論理的手順をすべて書き、最終的な要約を100文字でまとめてください」。
→ 例示に従ったレイアウトで、論理プロセスを示しつつ、短いまとめを生成する。
- Dual-Prompt(知識生成+本番)
- プロンプトA: 「この記事の内容を5点に分けて解説し、専門用語の定義も添えてください。」
- プロンプトB(Few-Shot例示込み): 「先ほどの定義を踏まえつつ、以下の例のように、見出しとまとめを作ってください…(例示)…」
→ まず情報を整理し、続いて指定フォーマットでまとめる二段構成。
いずれの方法でも、単なる一問一答より、明らかに整理された結果を得やすくなります。
まとめ
プロンプトエンジニアリングの技術が広く浸透するにつれ、複数の手法を組み合わせて最大限の成果を出すという発想が欠かせなくなってきました。
- Chain of Thought、Few-Shot Prompting、Zero-Shot CoT、Dual-Prompt Approachなど、それぞれの得意分野や特徴を理解し、実際のタスクに合わせて複合的に使う
- ステップごとのチェックやトークン数の管理を行いながら、誤り(ハルシネーション)や誤解のリスクを低減する
こうした工夫により、AIとのやり取りの精度や効率は大きく向上します。研究やビジネス、教育など、活用領域がますます拡大している今こそ、多様なテクニックの組み合わせを試してみてはいかがでしょうか。プロンプトエンジニアリングの未来はまだまだ広がっており、新たな発見やイノベーションも期待できます。
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