Zero-Shot CoT:追加学習ゼロでAIの思考過程を引き出す方法

プロンプトエンジニアリング

はじめに

AIや自然言語処理の世界では、大規模言語モデル(LLM)の登場によって、私たちの生活やビジネスが大きく変わりつつあります。ChatGPTや他の対話型AIを利用したことがある方は、「どうやって指示を出せば自分の意図に沿った回答が得られるのか」を考えたことがあるのではないでしょうか。その際に注目されているのが「プロンプトエンジニアリング」という技術です。

本記事では、そのプロンプトエンジニアリング手法の一つとして注目されている**「Zero-Shot Chain of Thought(Zero-Shot CoT)」**について、丁寧かつ分かりやすい形でご紹介します。なるべく専門用語をかみ砕きながら、豊富な事例やヒントを交えて解説していきますので、「Zero-Shot CoTって何だろう?」と興味をお持ちの方はぜひ最後までご覧ください。

Chain of Thought(CoT)のおさらい

CoTとは何か

Chain of Thought(CoT) とは、AIに対して「推論や計算の途中経過」を文章として出力させる考え方のことです。一般的なチャット型AIでは、ユーザーからの問いに対して最終的な答えだけを返すことが多いのですが、CoTでは「途中の思考プロセス」も含めて書き出すようにモデルに促します。

  • 例:算数の問題での従来の回答
    ユーザー:「5+3はいくつですか?」
    AI:「8です。」
  • 例:CoTを使った回答
    ユーザー:「5+3はいくつですか?途中の計算もすべて示してください」
    AI:「まず5と3を足すので、5+3=8です。よって答えは8です。」

ここでは簡単な例ですが、より複雑な問題(方程式や文章要約、ロジックの検証など)では、この「途中の説明」が非常に役立ちます。

CoTのメリット

  1. 思考プロセスの可視化
    AIが論理的にどう考えたかを確認できるため、ユーザーは回答を検証したり誤りを発見しやすくなります。
  2. 応用分野の拡大
    教育現場やビジネスの意思決定など、説明責任が求められる場面で、大きなメリットをもたらします。
  3. 回答の一貫性が向上する可能性
    モデル自身がステップバイステップで説明することで、内部的に論理を再確認する機会が生まれ、結果的に回答の精度が向上するケースもあります。

Zero-Shot CoTとは?

従来のCoTとZero-Shot CoTの違い

CoTを活用する方法はいくつかありますが、大きく分けると以下の2パターンがあります。

  1. Few-Shot CoT
    • 例示(サンプル)をいくつか提示して、AIが同じ形式で推論と回答を書くように誘導する。
    • たとえば「Aという問題はこういう思考プロセスで解き、答えはB」といった例を複数提示する。
    • 例示が必要なので、準備や設計の手間がかかる。
  2. Zero-Shot CoT
    • 明示的な例示(サンプル)を与えずに、ただ「思考プロセスを詳細に説明してほしい」と指示するだけ。
    • 追加のトレーニングや例示データなしで、モデルにステップバイステップの推論をさせる。

つまりZero-Shot CoT とは、「一切の例示を使わず、AIの事前学習済み知識だけを頼りに『途中経過を言葉にして』回答を引き出す」テクニックといえます。これはプロンプト内での単純な指示で済むため、素早く導入できるのが最大の特徴です。

なぜ「Zero-Shot」で可能なのか

近年の大規模言語モデル(ChatGPTなど)は、膨大なテキストデータを学習しているため、「ステップバイステップで説明する文章形式」そのものを、すでに見たことがあるケースが非常に多いのです。そこで、ユーザーが

「途中の計算や思考の流れをすべて書き出してから、最終的な答えを教えてください。」

などと指示すると、モデルは過去に学んだ「推論過程を言語化した文章」に類似した形式で応答を生成しようとします。これにより、例示を一切出さなくてもチェインオブソート的な回答が得られるわけです。

Zero-Shot CoTの基本的な使い方

プロンプト例

もっともシンプルな方法は、「考え方をすべて書いたうえで回答してください」 と明言するだけです。たとえば以下のように書いてみるといいでしょう。

  • 例:数学問題
    「次の問題を解く際、全ての計算ステップを日本語で明確に書き出し、そのうえで結論を示してください。問題:『7×4−5×2はどうなりますか?』」
    • 期待される回答のイメージ
      1. まず7×4=28を計算する
      2. 次に5×2=10を計算する
      3. 28−10=18
      4. 従って答えは18

このように「思考を文章で表現する」ように命令するだけで、モデルは自律的にステップバイステップの説明を出力しようとします。

追加フレーズを活用

より多くのステップを引き出したい場合や、もう少し詳しく書いてほしいときは、

  • なるべく詳細に推論過程を書いてください」
  • 論理的な理由を述べたあとに、最終的な結論を示してください」

のようなフレーズを織り交ぜると効果的です。

Zero-Shot CoTのメリットと注意点

メリット

  1. 準備コストが低い
    Few-Shot Promptingのように「サンプルをたくさん用意する」手間が不要。すぐに実験が始められます。
  2. 推論過程を人間がチェック可能
    「答えは正しいのかな?」と疑問に思ったとき、途中のロジックが示されていれば容易に検証できます。間違いがあれば修正も簡単です。
  3. 説明可能性(Explainability)の向上
    AIの出力に対して、「なぜその結論に至ったのか」を説明しやすくなるため、教育現場やビジネスシーンでの信頼度を高められます。

注意点

  1. 思考プロセスが常に正しいとは限らない
    AIは言語パターンをベースに文章を生成しているため、途中の推論に誤りが含まれていても、それらしく書き出すことが可能です。論理的整合性を必ず人間が確認する必要があります。
  2. モデル依存性
    Zero-Shot CoTがうまく機能するかどうかは、モデルのサイズや事前学習の質に大きく左右されます。小規模なモデルや古いモデルでは、思うように「途中の思考」を書き出せない場合があります。
  3. トークン制限への配慮
    長い文章を生成すると、APIなどで定められたトークン数上限に引っかかるおそれがあります。プロンプトや期待する出力が長くなる場合は注意しましょう。

具体例:Zero-Shot CoTの応用シーン

数学・算数の練習

  • 例題:
    「12人のクラスを3人ずつのグループに分けたいです。全部でいくつのグループができますか?途中の計算ステップを必ず書いてから答えを出してください。」
  • AIの回答(期待イメージ)
    1. 「合計12人いる。
    2. グループ1つあたり3人必要。
    3. 12÷3=4。
    4. よって4グループできる。
      答えは4グループです。」

文章要約

  • 例題:
    「以下の文章を読む前に、要点をステップバイステップで整理しながら、最後に短めの要約文を提示してください。『本日は2023年度の新製品発表会が行われ…』」
  • 結果イメージ
    1. 「まず本文を読み、重要なキーワードを抽出:‘新製品発表会’ ‘2023年度’ ‘市場拡大’など。
    2. 次に重複する文脈を省いて、主要情報をまとめる。
    3. 要約文を作成。
      [要約]: ‘2023年度の新製品発表会が行われ、市場拡大を目指す戦略が披露された。’」

ロジカル・パズルや推論タスク

  • 例題:
    「もしAさんが犬を飼っていて、Bさんが猫を飼っている。Cさんはいずれでもないペットを飼っているとする。Cさんが飼っているペットは鳥か魚かのどちらかだとすれば、Cさんのペットは何か。途中の推論も書いてください。」
  • AIの応答例(期待)
    1. 「Aさんは犬、Bさんは猫。Cさんは犬でも猫でもない。
    2. 選択肢としては鳥か魚しか残っていない。
    3. 問題文からはどちらかに確定する情報がないので、答えは ‘どちらか決められない’ かもしれない。
      結論:Cさんは鳥か魚のいずれかを飼っているが、情報不足で特定不能。」

上記のように、Zero-Shot CoTでもそれっぽい推論過程を示してくれますが、実際に論理が飛躍していないかなどの確認は必要です。

Zero-Shot CoTをさらに上手に使うヒント

明確な指示を与える

「途中の思考をすべて書いてください」、「すべての計算式や論理的根拠を示してください」といった明示的な言葉を使うと、AIがより詳細な思考プロセスを出力しやすくなります。ぼんやりと「説明して」と言うだけでは、簡潔な説明で済まされる可能性があります。

適度にステップ数を指定する

ユーザーが「何ステップぐらいで書いてほしいのか」を指定すると、AIがステップバイステップの形式を整えやすくなります。たとえば「4〜5つのステップに分けて考え方を書いてください」など。

要点だけに絞るか、詳細をしっかり書くか

出力が長くなるほど、モデルが繰り返しや冗長表現を混ぜ込む可能性があります。トークン制限やユーザーの可読性を考え、どの程度詳しく書いてほしいか(箇条書きなのか、文章形式なのか)をプロンプトで指定するといいでしょう。

ハルシネーションを防ぐ工夫

CoTを促すと、AIが自信満々に間違った情報を混ぜ込むこともあるため、事実確認や計算の再チェックを人間が行うプロセスは外せません。信頼性が重視されるシーンでは、必ず検証の仕組みを入れましょう。

Zero-Shot CoTの今後の可能性

Zero-Shot CoTは、例示がいらないという手軽さから、教育、ビジネスサポート、クリエイティブ分野、プログラミング補助など、幅広い場面で使われ始めています。特に次のような展開が期待されています。

  1. 初心者学習サポート
    • 学生が問題を解く際に、AIがステップごとの解説を自動で提示してくれる。
    • 教師や講師が作業時間を大幅に節約でき、かつ学生は解答の根拠を知れる。
  2. 専門領域での説明責任
    • 医療や法律の分野など、なぜその結論に至るかを詳しく説明する必要がある場面。
    • Zero-Shot CoTにより、AIが一種の「仮説と論証のプロセス」を示すため、専門家が検証しやすくなる。
  3. 統合的なチェインオブソート研究
    • 今後、モデル自体がさらに多くのチェインオブソート形式の学習を取り入れることで、より精度の高いZero-Shot CoTが実現する可能性があります。

まとめ

Zero-Shot CoT(Zero-Shot Chain of Thought) は、追加の例示や学習を行わずとも、AIに「思考プロセス」を言語化させられるプロンプトエンジニアリングの手法です。比較的少ない手間で応用できるため、教育やビジネスなど多様な分野で活用が進んでいます。

  • メリット
    1. サンプル不要で簡単に導入できる
    2. ステップバイステップな説明で検証しやすい
    3. 説明可能性と信頼度の向上
  • 注意点
    1. 思考プロセスが正しいとは限らない(モデルの幻覚リスク)
    2. トークン制限と長文出力の扱い
    3. モデルの性能に依存

これからZero-Shot CoTを実際に試してみたい方は、まずは身近な計算問題や簡単な要約タスクで始めてみることをおすすめします。
途中経過をすべて書いてください」「論理的な理由を示してください」といったフレーズをプロンプトに盛り込むだけで、想像以上に詳細な解説が返ってくる場合があります。ぜひその挙動を観察してみてください。AIがどのように“思考”しているのか垣間見ることは、とても興味深い体験となるでしょう。

最後に繰り返しになりますが、Chain of Thoughtによって示される「思考プロセス」は、あくまでモデルが生み出した文章パターンであり、人間の論理に完璧に対応しているとは限りません。結論を鵜呑みにせず、常に人間側での検証や知見を交えて活用することが大切です。これらの点を踏まえながら、Zero-Shot CoTの可能性を探究してみてはいかがでしょうか。

コメント