はじめに
近年の急速なAI技術の進化に伴い、自然言語処理(NLP)の分野では「プロンプトエンジニアリング」という概念が注目を浴びています。これは、ユーザーがAIに「どのような問いかけや指示を与えるか」を工夫することで、AIが返してくれる結果の質を大きく左右するという考え方です。たとえば、大規模言語モデル(LLM)に質問したり、何かを依頼したりする際に、プロンプト(命令文)を最適化することで、得られる応答がより正確かつ有用なものになります。
本記事では、プロンプトエンジニアリングやLLMに関連する重要な用語を分かりやすく解説していきます。専門的な言葉ばかりで難しい印象を受けるかもしれませんが、それぞれの概念をしっかり理解することで、AIとのやり取りをより効率的かつ快適に行えるようになります。
- プロンプトエンジニアリングとは
- 主要用語の解説
- Language Model(言語モデル)
- Foundation Model(基盤モデル)
- GPT
- Prompt(プロンプト)
- Prompts(プロンプツ)
- Fine Tuning(微調整)
- Few-Shot Prompting(少数例プロンプティング)
- Chain-of-Thought(思考プロセスの連鎖)
- Encoder Model(エンコーダーモデル)と Decoder Model(デコーダーモデル)
- Embeddings(埋め込み)
- BPE(Byte Pair Encoding) / Word-Piece Tokenizer
- Tokenizer(トークナイザー)
- Logits(ロジット)
- Sampler(サンプラー)
- Temperature(温度)
- Shannon Entropy(シャノンエントロピー)
- RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)
- プロンプトエンジニアリングを成功させるコツ
- 今後の展望
- まとめ
プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、AIモデル(特に大規模言語モデル)に入力する「プロンプト(命令・質問など)」をどのように設計し、最適化するかという手法の総称です。プロンプトの設計を工夫すれば、同じモデルを使っていても、出力の質に大きな差が生まれます。
- 例:
- 「要約してください」という指示よりも、「次の文章を200文字程度で分かりやすく要約して、重要なキーワードを3つ提示してください」と指定したほうが、より明確で使える結果が得やすくなります。
プロンプトエンジニアリングでは、モデルが誤解しないように必要な前提情報や文脈を丁寧に盛り込むことが重要であり、また「Chain-of-Thought(思考プロセスの連鎖)」を促すような誘導が効果的とされています。
主要用語の解説
ここからは、Learn Promptingの用語集をベースに、プロンプトエンジニアリングや大規模言語モデルに関する主な単語を解説します。難解な部分もあるかもしれませんが、具体例を交えながら噛み砕いて説明しますので、イメージをつかんでみてください。
Language Model(言語モデル)
言語モデルとは、膨大なテキストデータを学習し、「ある文章の次に続く単語を推定する」能力を獲得したAIモデルのことです。文章の文脈を理解して自然な文章を生成できるため、チャットボットや翻訳、要約など幅広い応用が可能です。
- 例: ChatGPTやGPT-3などは、単語を推定しながら文章を構築する「言語モデル」の一種です。
Foundation Model(基盤モデル)
Foundation Model(基盤モデル)とは、膨大なデータから事前学習された汎用的なモデルを指します。多種多様なテキストを学習し、文章生成や理解において強力な基礎能力を持っています。そこから用途に合わせて追加学習(Fine Tuning)を行うことで、特定のタスクに最適化されたAIを作り上げることができます。
- 例: GPTシリーズやBERT、T5などは、基盤モデルとして多くのユーザーや企業によって活用されています。
GPT
GPT(Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAIが開発したTransformerベースの言語モデルです。大量の文章データを「事前学習(Pre-training)」し、その後、必要に応じて微調整することで多様なタスクに応用できる点が特徴です。
- 例: GPT-2やGPT-3は、膨大なパラメータを持つ強力なモデルで、自然な文章生成や質問応答、翻訳などに幅広く活用されています。
Prompt(プロンプト)
Promptとは、モデルに対して与える質問や指示の文章を指します。AIにとっては、このプロンプトが「何をすればいいのか」を理解するための手がかりになります。プロンプトの設計次第で、モデルからの応答が劇的に変わるため、プロンプトエンジニアリングが大きなテーマになっています。
- 例: 「以下の文章を要約し、重要なポイントを3点挙げてください。」のように、AIへの命令文がプロンプトです。
Prompts(プロンプツ)
「Prompt」の複数形であり、複数の指示や質問をまとめて行う場合に使われます。連続的なタスクを実行したいときや、異なる段階でAIに別々の情報を与えたいときに、それぞれ異なるプロンプトを用意します。
Fine Tuning(微調整)
大規模言語モデルを、特定のタスクや分野にあわせて追加学習させる工程です。基盤モデルが持つ汎用的な言語能力をもとに、よりニッチな専門タスクを高い精度で実行できるように最適化します。
- 例: 感情分析モデルを作る際、ベースとなる大規模言語モデルに対して「ユーザーのコメント → ポジティブ/ネガティブ」のラベル付きデータを使って追加学習させると、感情分析に強いモデルが得られます。
Few-Shot Prompting(少数例プロンプティング)
Few-Shot Promptingとは、わずかな例(場合によっては1~3例程度)をプロンプト内で示し、モデルに対してタスクのやり方を理解させる手法です。大量の追加データを用意しなくても、モデルの推論能力を活かして目的のタスクをうまくこなせる場合があります。
- 例: 「これは例です:『文章A→要約例A』『文章B→要約例B』。次の文章Cを同じ要約スタイルでまとめてください。」のように少数例を提示します。
Chain-of-Thought(思考プロセスの連鎖)
AIが問題を解く際、人間のように「理由づけ」や「途中経過」を踏まえながら回答を導くプロセスを重視する手法です。プロンプト内で「考え方」を説明し、モデルにもその思考プロセスを明示させると、複雑なタスクでより正確な回答を得やすくなります。
- 例: 数学の問題を解くとき、途中式を含めて順序立てて説明するようにAIに促すと、答えだけでなく思考プロセスも出力してくれる場合があります。
Encoder Model(エンコーダーモデル)と Decoder Model(デコーダーモデル)
Transformerアーキテクチャは、大きくエンコーダー部分とデコーダー部分に分かれます。
- Encoder Model: 入力文章を高次元ベクトル表現に変換して、その特徴を抽出する役割を担う。BERTなどが有名です。
- Decoder Model: 抽出された文脈情報をもとに、次の単語を生成したり、翻訳文を出力したりする部分。GPTシリーズはデコーダーモデルが中心です。
Embeddings(埋め込み)
文章や単語をコンピューターが扱いやすい数値ベクトルに変換したものを「埋め込み」と呼びます。単語間の意味的な類似度を数値として扱えるようになるため、類似文章の検索や要約タスクなどで役立ちます。
- 例: 「王様」と「女王」の埋め込みベクトルは、「王様」と「犬」の組み合わせよりも数値上の距離が近いとされるなど、意味的な近さを捉えられるようになる。
BPE(Byte Pair Encoding) / Word-Piece Tokenizer
テキストを「トークン」と呼ばれる単位に分割する手法の一種です。従来の「単語単位」では未知の単語が多く発生する問題がありましたが、BPEやWord-Pieceを使うことでサブワード(単語の一部分)まで分割し、新しい単語や表記ゆれにも対応しやすくします。
- 例: 「learning」→「learn」「ing」など、単語を複数のトークンに切り分けます。未知語への頑健性が高まるのが特徴です。
Tokenizer(トークナイザー)
テキストをトークンに分割する機能をもったプログラムやモジュールです。モデルに入力する前に、このトークナイザーで文章を「トークン列」に変換してから、AIが計算を行うという流れになります。
Logits(ロジット)
モデルが各トークンに対して出力する「生のスコア」のことです。たとえば、「次の単語は何が最適か?」を計算するとき、ソフトマックス関数をかける前の状態の値をログイット(logits)と呼びます。このログイットを正規化することで確率分布(どの単語がどの程度の確率で次に来るか)を得ます。
Sampler(サンプラー)
モデルが出力する確率分布から、最終的に「次の単語」をどのようにサンプリングするかを制御する仕組みです。単純に最も高い確率のトークンを選ぶ「グリーディーサンプリング」や、確率に応じてランダムに選ぶ「確率サンプリング」など、方法はいろいろです。
Temperature(温度)
サンプリング時の「ランダム性」の度合いを調整するパラメータです。Temperatureが高いほどランダム性が高くなり、創造的な文章が出やすいですが、一貫性に欠ける応答が増えることもあります。逆に低くすると、より安定した応答が得られますが、単調になりやすい傾向があります。
- 例: Temperatureを1.0に設定すると程よくランダムになり、0.7に下げるとより保守的な文章生成をしやすくなります。
Shannon Entropy(シャノンエントロピー)
確率分布の「不確実性」を定量化する指標で、情報理論の概念です。言語モデルの文脈では、次のトークンを選ぶ確率分布がどれだけ散らばっているかを測ることができます。高いといろいろな単語が候補にあがり、低いと特定の単語に集中していることを意味します。
RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)
人間の評価結果をフィードバックとして取り込み、モデルの振る舞いを調整する強化学習手法です。人間が「この回答は望ましい」「こちらの回答は望ましくない」というラベルを与えることで、モデルがユーザーにとってより好ましい応答を返せるようになります。
- 例: ChatGPTの開発では、RLHFを用いて、不適切表現や誤情報を出す確率を低減させる試みが行われています。
プロンプトエンジニアリングを成功させるコツ
上記の用語を踏まえ、プロンプトエンジニアリングで成果を上げるポイントをまとめます。
- 明確かつ具体的な指示
AIにしてほしい作業を「具体的なテキスト」で伝えると、目的に合った回答が得やすくなります。- 例:「製品の特徴を列挙して」よりも「この製品について、長所を5つの箇条書きで書き出し、30文字以内の見出しをつけてください」のほうが成果が安定します。
- コンテキスト(文脈)を十分に与える
モデルが誤解しないよう、前提条件や使ってほしいデータの形式などを丁寧に提示しましょう。 - Chain-of-Thoughtを誘導する
数学問題や論理的思考が必要な場合は、「どう考えたか」というプロセスを説明してもらうようにプロンプト内で示すと、回答の一貫性が向上しやすくなります。 - 少数例プロンプティングの活用
モデルにタスクを理解させるために、例をいくつか提示します。例の書き方を統一すれば、モデルも同じスタイルで応答してくれます。 - TemperatureやSamplerの設定
回答の安定性や創造性を調整するために、Temperatureを変更してみると良いでしょう。創作系タスクでは高め、厳密な回答が必要なタスクでは低めに設定すると、満足度が上がりやすいです。
今後の展望
プロンプトエンジニアリングの手法はまだ新しく、日々進化しています。大規模言語モデルの性能が向上するにつれ、より高度な対話や専門領域での応用が可能になるでしょう。一方で、モデルに依存しすぎるリスクや誤情報の拡散、バイアスの問題なども指摘されています。
そのため、プロンプトエンジニアリングやLLMの活用においては、常に人間が最終的なチェックや検証を行うことが不可欠です。今後さらに改良が進み、RLHFなどの仕組みによってモデルの品質向上が見込まれる一方、私たち人間が責任をもってAIを運用する仕組みづくりもますます重要になっていきます。
まとめ
本記事では、大規模言語モデルやプロンプトエンジニアリングに関連する主要な用語を解説しました。用語の意味を理解することで、プロンプトの組み立て方やモデルの挙動がよりクリアに分かるようになるはずです。
- プロンプトエンジニアリングは、AIが何をどう行うか指示するための要となる技術です。
- Few-Shot PromptingやChain-of-Thoughtなどのテクニックを活用すると、高度なタスクにも対応できる可能性が高まります。
- TokenizerやBPE、Temperatureといった設定項目を把握すれば、モデルの出力を細かく調整することが可能です。
これらの理解が深まるほど、AIとの対話や連携がスムーズになり、より活用の幅が広がることでしょう。今後ますます進化する大規模言語モデルの世界で、プロンプトエンジニアリングの知識は必須のスキルとなりつつあります。ぜひ、実際のプロンプト作成やモデル活用に挑戦しつつ、AIの可能性を最大限に引き出してみてください。
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