はじめに
近年、ChatGPTやGoogle Bardなど、大規模言語モデル(LLM)を活用した対話型AIが急速に普及しています。こうしたAIとやり取りをする際、いかに「的確な指示(プロンプト)」を与え、思いどおりの出力を得るかは非常に奥深いテーマです。こうした指示文の設計は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれ、AIを効果的に使いこなす上で欠かせないスキルとなっています。
本記事では、「Few-Shot Prompting」というテクニックについて詳しく解説します。
「少ない例を提示するだけでAIにタスクを理解させる方法」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。しかし、実際には明確な型があり、コツを押さえれば非常に強力なツールになります。なるべく専門用語を噛み砕きながら、丁寧に説明していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
Few-Shot Promptingとは何か?
定義:少ない例示でタスクを学習させる
Few-Shot Promptingとは、AIモデルに対して複数の「入力→出力」例(サンプル)をプロンプト内で与え、そのパターンをもとに追加のデータやタスクを処理させる手法です。大量のデータセットを使った学習(Fine-Tuning)などを行わなくても、短い例示をいくつか示すことで、モデルに「どのような形式の出力を求めているか」を理解させられます。
- 例:
- 「A」という文章には「B」という応答
- 「C」という文章には「D」という応答
というように2~3個程度のサンプルをプロンプト内であらかじめ提示し、そのあとに新たな入力を与えると、AIモデルは「過去の例の関係性」を参照しながら回答を生成します。これがFew-Shot Promptingの基本的な流れです。
Zero-Shot Promptingとの違い
- Zero-Shot Prompting: 例示を一切示さずに、ただ「〜してください」と命令するだけでAIに回答させる方法。
- Few-Shot Prompting: 上記のZero-Shotに比べ、1〜数個の例示を提示してからAIに回答を促す方法。
Zero-Shot Promptingの場合、AIモデルはあらゆる知識を自力で総動員しながら回答を生成します。しかし、「具体的にどういうスタイルやフォーマットで答えてほしいのか」が曖昧だと、思いもよらない返事が返ってくる場合も多いです。
それに対してFew-Shot Promptingでは、ユーザーが「こういう形式で答えてほしい」という例を提示するため、AIはそれを模倣しやすくなります。これにより、より狙いに近い出力を得られる可能性が高まるわけです。
なぜFew-Shot Promptingが有効なのか
追加データの準備が不要
大規模言語モデルを特定のタスクでうまく動かすには、本来なら大量の訓練データを用意し、モデルを再学習(Fine-Tuning)する必要がありました。しかし、Few-Shot Promptingでは、プロンプトの中に数例のサンプルを入れるだけで、モデルに新しいタスクのやり方を伝えられるのです。
たとえば、あなたがメールの要約サービスを作りたいとき、細かいラベル付きデータを1万通り集めるのは大変ですよね。しかしFew-Shot Promptingであれば、数通の「メール原文→要約」を例示するだけで、ある程度の精度で要約の仕方を理解させられます。初期コストが低く済む点で非常に強力です。
AIの汎用性を活かせる
大規模言語モデルはすでに膨大な文書を学習しており、さまざまな分野の知識を含んでいます。Few-Shot Promptingでは、その「汎用的な知識や言語能力」を土台に、「こういうパターンで回答してほしい」という最小限の情報だけを与えます。するとモデルは、すでに持っている知識を活かしながら、提示されたパターンに沿って新しい入力を処理するのです。これは、従来の特化型モデルにはない柔軟性といえます。
簡易的なテストやプロトタイプに最適
「そもそもこのタスクをAIにやらせてみて効果があるのか?」という仮説検証レベルで、Few-Shot Promptingはとても便利です。なぜなら、大量のデータ収集やラベリングを行わなくても、即座にモデルの出力を確認できるからです。もし期待した成果が得られなかったとしても、大きなコストをかけずに方向転換できます。
Few-Shot Promptingの具体的な流れ
例示のペアを用意する
まずはAIにやってほしいタスクについて、「入力→理想的な出力」のサンプルを用意します。これをいくつか並べて提示するだけでも、AIはパターンを読み取ってくれます。
- 例:商品レビュー要約のタスク
- 「レビュー: ‘この商品はデザインはいいけど、壊れやすかった。星3つ。’ → 要約: ‘デザイン良好だが耐久性に難あり。’」
- 「レビュー: ‘届くのに時間がかかったけど、品質は満足。星4つ。’ → 要約: ‘配送に難ありだが品質に満足。’」
上記のようなペアを2〜3個提示するだけで、AIは「レビューの文章を短い要約文に変換し、ポイントを的確に押さえる」タスクだと認識しやすくなります。
新しい入力を提示する
例示の後に、実際の本番入力を与えます。
- 例:新規のレビュー
- 「レビュー: ‘色が思っていたより濃い。でも使いやすいし値段も手頃。星4つ。’ → 要約:」
ここで「→ 要約:」と書くことで、「上記のパターンを踏まえて次の文章も要約してください」という意図を示します。AIは過去の例示を参照しながら、新しい入力を類似の形式でまとめてくれます。
出力を確認・微調整
AIが返してきた回答が期待通りでなければ、例示を修正したり追加したりして、プロンプトを調整します。たとえば要約が長すぎるなら「要約は30文字以内で」「一文で」と条件を加えるとよいでしょう。ここでは、試行錯誤を繰り返しながら、最適なプロンプトを模索するステップが重要です。
Few-Shot Promptingを上手く使うためのコツ
例示はシンプルかつ代表的なものを選ぶ
例示そのものが複雑すぎると、AIが正しくパターンを学習しにくくなります。なるべくシンプルで、目的とするタスクの典型的パターンを含む例を選びましょう。また、スペルミスや文法ミスを含んだ例を使うと、AIが誤ったパターンを学習する恐れがあります。
例示の数は少なすぎず多すぎず
理想的なFew-Shotは、2〜5例程度が目安と言われています。あまりに少ないと、AIがパターンを理解しきれない可能性がありますし、多すぎるとプロンプトが長大になってモデルが混乱したり、トークン数の制限にかかる恐れがあります。適度なバランスを探りつつ、試してみることが大切です。
フォーマットを統一する
例示の形式をある程度統一して書くことで、AIがそれを模倣しやすくなります。たとえば、「質問: ○○ → 回答: ○○」のように同じ書き方をする、ラベルや区切り記号を整えるなど、小さな工夫が大きく結果を左右します。
- 悪い例:
- 「これは文章Aです: ‘こんにちは私はロボットです’。それに対する返事はどう? / 次は ‘今日はいい天気だね’ について答えほしい。」
→ 一貫したフォーマットがない。
- 「これは文章Aです: ‘こんにちは私はロボットです’。それに対する返事はどう? / 次は ‘今日はいい天気だね’ について答えほしい。」
- 良い例:
- 「文章: ‘こんにちは、私はロボットです。’ → 応答: ‘はじめまして。ロボットさん、調子はいかがですか?’
文章: ‘今日はいい天気だね。’ → 応答: ‘本当ですね。お出かけの予定はありますか?’
文章:」
- 「文章: ‘こんにちは、私はロボットです。’ → 応答: ‘はじめまして。ロボットさん、調子はいかがですか?’
ユニークな例や難易度の異なる例を含める
実際のタスクでは、簡単なケースだけでなくややこしいケースも出てきます。たとえば、文章要約なら「とても短い文章の要約」「複数の話題が混在する長めの文章の要約」など、バリエーションを持たせた例示を含めると、モデルの対応力が上がることがあります。
Few-Shot Promptingの活用事例
要約や校正、翻訳
レビュー要約や記事要約、文章校正、翻訳などテキストベースのタスクは、Few-Shot Promptingと非常に相性が良いです。たとえば、海外の論文抄録を日本語に翻訳してほしいとき、例示として「英語の抄録→日本語訳」を数パターン入れておくだけで、モデルは類似の形式で新しい抄録を翻訳してくれます。
質問応答ボット(FAQ形式)
FAQ形式の質問応答ボットを作る場合、Q&Aのいくつかの例を提示し、最後にユーザーからの質問を置いて「答えてください」と指示する方法です。これによってAIがFAQ的な構造を理解し、新規の質問に対しても似た形式で回答を返せるようになります。
- 例:
- 質問: 「営業時間はいつですか?」 → 答え: 「午前10時から午後8時までです。」
- 質問: 「駐車場はありますか?」 → 答え: 「はい、無料でご利用いただけます。」
- 質問: 「宅配はできますか?」 → 答え: 「申し訳ありませんが、現在宅配は行っておりません。」
- 質問: 「○○○」 → 答え:
このようにサンプルQ&Aをいくつか示しておくと、新しい質問にも似たフォーマットで回答を返してくれる可能性が高まります。
コード生成・補完
ソースコードの補完やバグ修正の例を提示することで、AIにプログラムの意図を理解させることもできます。たとえば、PythonでWebスクレイピングをするコード例を2つ提示し、その後に類似のタスクを与えると、AIがそのコードスタイルを継承した出力を生成しやすくなります。
- 例:
- サンプルA:
import requests
from bs4 import BeautifulSoup
url = "https://example.com"
response = requests.get(url)
soup = BeautifulSoup(response.text, "html.parser")
# タイトル抽出
title = soup.title.string
print(title)
- サンプルB:
import requests
from bs4 import BeautifulSoup
url = "https://another-example.com"
res = requests.get(url)
soup = BeautifulSoup(res.text, "html.parser")
# 見出し(h1)抽出
heading = soup.find("h1").text
print(heading)
次のようなタスクの場合のコードを生成してください:
- URL: “https://my-website.com“
- ページ内にあるすべての画像のURLをリストとして表示
# ここに回答を出力
Few-Shot Promptingの注意点や限界
モデルサイズや性能に依存
Few-Shot Promptingは、大規模な汎用言語モデルを使う場合に特に有効です。モデルが小さいと例示を理解する能力自体が乏しく、思ったような結果が出ない場合があります。製品や研究用途で活用する際は、使用するモデルの性能をきちんと検証することが大切です。
トークン数の制約
プロンプトが長くなると、トークン数(モデルが一度に処理できる文字数)に引っかかり、エラーやレスポンス切れが発生する場合があります。例示を多く入れすぎると、そもそもプロンプトが入力可能なサイズを超えてしまうかもしれません。
一貫性の維持が難しい場合も
複数の例示が矛盾している、あるいはスタイルがバラバラだと、AIがどのパターンを優先すべきか混乱することがあります。また、会話が長引くと、過去のFew-Shot例を参照したまま新しい指示に適応するのが難しくなるケースもあるため、必要に応じてリフレッシュ(会話コンテキストを再設定)することが重要です。
セキュリティや倫理面のリスク
例示の中で機密情報や偏見のある表現を含むと、AIがそれを真似してしまう可能性があります。Few-Shot Promptingは非常に柔軟ですが、ユーザーが与えた例から負の側面を引き継いでしまうこともあるため、注意が必要です。
実践ステップ:Few-Shot Promptingを導入するには
- タスクの明確化
まずは、「AIに何をしてほしいのか」を具体的に定義します。要約?校正?翻訳?それともコーディング支援? - 例示の準備
タスクに沿った、代表的かつ簡潔な「入力→出力」のサンプルを2〜5個ほど用意します。 - プロンプトの設計
以下のように構成すると分かりやすいでしょう:- タスクの説明(何をしてほしいか)
- 例示(入力と理想的な出力)
- 「続けて新しい入力を与えるので、同じ形式で回答してください」などの指示
- 本番の入力
- テストとリバイズ
AIにプロンプトを投げてみて、返ってきた回答を検証。望ましくない結果なら、例示を増やしたり形式を変えたりして修正。 - 運用と監視
サービスやシステムに組み込みたい場合は、ユーザーからのフィードバックを基にプロンプトをアップデートしていくことが欠かせません。
まとめ
Few-Shot Promptingは、わずかな例示だけでAIモデルに特定のタスク処理を理解させる強力な手法です。
- メリット: 大量の訓練データを用意しなくても、柔軟に新しいタスクをこなせる。
- やり方: 「入力→出力」のサンプルをいくつか示してから新しい入力を投げ、同様の形式で回答を促す。
- 注意点: トークン数の制限、モデル性能の差、例示の質や一貫性などに注意が必要。
プロンプトエンジニアリングの世界では、Few-ShotだけでなくOne-ShotやZero-Shot、さらにはChain-of-Thought Promptingなど、さまざまな技術が存在します。これらを組み合わせることで、より高度な会話型AI体験が可能になります。まずは本記事で紹介したFew-Shotの概念と活用法を身につけ、自分のプロジェクトやサービスで試してみてはいかがでしょうか。