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プロンプトエンジニアリング入門2 基盤言語モデルと命令調整済み言語モデルを解説!

はじめに

近年、AI(人工知能)の進歩は日進月歩で、さまざまな業界や領域で活用が広がっています。なかでも自然言語処理(NLP)分野の飛躍は目覚ましく、「人間が話す言語を、コンピューターがどれだけ正確に理解し、自然な文章を生成できるか」に注目が集まっています。

特に大規模言語モデル(Large Language Model: LLM)の登場によって、文章生成や文章要約、質問応答などのタスクが劇的に向上し、私たちが普段利用しているアプリケーションやサービスの裏側で活躍するシーンが増えました。これらのモデルは膨大なテキストデータを事前学習することで、高度な言語処理能力を獲得します。

しかし、LLMには大きく分けて「基盤言語モデル(Base Language Model)」と「命令調整済み言語モデル(Instruction-Tuned Language Model)」という2つの形態があり、それぞれのモデルには特有の強みや使いどころがあります。本記事では、これら2つのモデルがどのように異なり、どのような場面で役立つのかをじっくり解説します。活用事例や技術的背景、さらには今後の展望まで含めて詳しく取り上げるので、AIに詳しくない方でも理解しやすい内容になっています。

AIモデルと大規模言語モデル(LLM)とは

AIモデルとは、人間が行う知的作業を代替あるいはサポートするために開発されるアルゴリズムの総称です。ディープラーニング(深層学習)の技術に基づき、多層構造のニューラルネットワークを用いて大量のデータを学習することで、画像認識や音声認識、自然言語処理など、さまざまな分野に応用されます。

自然言語処理の領域では、文章や単語といったテキストデータを扱います。中でも特に強力なのが、「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるモデルです。LLMは、書籍やウェブページ、学術論文、SNSの投稿など、多種多様なテキストを読み込んで学習し、言語を理解・生成する能力を身につけています。

近年のLLMは、Transformer(トランスフォーマー)というニューラルネットワークのアーキテクチャを採用しており、以前のRNN(リカレントニューラルネットワーク)やLSTM(Long Short-Term Memory)よりも高い学習効率と柔軟性を備えています。代表的なモデルには、OpenAIが開発したGPTシリーズ(GPT-2、GPT-3、GPT-3.5など)や、GoogleのBERTやT5、Meta(旧Facebook)のLLaMAシリーズなどが挙げられます。

これらのモデルは数億から数千億ものパラメータを持ち、単語や文脈のパターンを詳細に学習しています。そのため、人間に近いレベルの文章生成や文脈理解が可能になり、チャットボット、翻訳、要約、プログラミング支援など、多彩な応用が実現されています。

基盤言語モデル(Base LLM)とは

基盤言語モデル(Base LLM)は、大規模なテキストを「自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)」などの方法で事前学習した、汎用的な言語モデルを指します。まだ特定のタスクにカスタマイズされていない、言わば“素の状態”に近いモデルです。

膨大な文書を読み込み、「文章の続きを予測する」「一部を隠して当てる」などのタスクを繰り返すことで、言語の文脈構造や単語同士のつながりを学習します。これにより、どんな話題にもある程度対応できる“言語の総合力”を身につけるわけです。

例えば、OpenAIのGPT-3はデータセットとして、書籍やインターネット上の文章を膨大に収集し、それを学習することで汎用的な文章生成能力を獲得しました。しかし、基盤の状態だと、ユーザーが指示を与えても、その「指示の意図」を必ずしも正確に汲み取ってくれるとは限りません。出力される文章が必ずしも安全・正確な内容になるわけでもなく、時には誤った情報や不適切な表現を含む場合もあります。

基盤言語モデルは研究者や開発者にとって、特定タスクへのカスタマイズ(Fine-Tuning)や命令調整(Instruction Tuning)を行うための土台として使われることが多いです。幅広い文脈理解を備えているため、専門分野やユースケースごとに微調整することで強力なAIシステムを構築できます。

命令調整済み言語モデル(Instruction-Tuned LLM)とは

命令調整済み言語モデル(Instruction-Tuned LLM)は、基盤言語モデルに対して「ユーザーからの命令や質問を正しく理解し、それに見合った答えを返す」ように追加学習を施したモデルです。英語では「Instruction Tuning」と呼ばれるプロセスを経るため、その名がついています。

命令調整では、「命令(指示や質問)→模範解答」という形式のデータセットを用いて、モデルをユーザーフレンドリーな方向に微調整します。加えて、RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)と呼ばれる人間のフィードバックを取り入れる強化学習手法を用いることも多いです。これにより、モデルが返す回答がより自然で安全、かつユーザーのニーズに合った内容になるよう最適化されます。

具体的な例として、OpenAIが公開しているChatGPTは代表的な命令調整済みモデルです。ChatGPTはGPT-3.5をベースとして、ユーザーがチャット形式で質問したり要望を出したりしたときに、なるべく正確かつ分かりやすい回答が得られるようにトレーニングされています。その結果、従来のBase LLMよりも対話性が高く、幅広い人々にとって使いやすいインターフェースを備えています。

基盤言語モデルと命令調整済みモデルの違い

大きく異なるのは「ユーザーの指示をどれだけ的確に汲み取れるか」という点です。基盤言語モデルは汎用性が高い反面、指示や質問にフォーカスしていないため、ユーザーが何を求めているかを理解しきれず、ピントのずれた回答になることがあります。一方、命令調整済みモデルは、ユーザーがチャットや文章入力を通じて示す意図を理解しやすいよう訓練されているので、QA(質問応答)や文章生成のタスクでより実用的な応答が期待できます。

また、安全性や信頼性の面でも違いが出ます。Base LLMはそのまま使うと、誤情報を堂々と出してきたり、不適切な表現を生成したりしがちです。命令調整によって、そうした問題を一定程度抑えられるよう工夫されますが、完全にゼロにするのは依然として難しい課題です。

もう一点、開発コストも異なります。基盤言語モデルをそのまま導入するだけであれば、公開されているモデルをダウンロードして利用できますが、ユーザー指示への応答精度を高めるためには、追加のデータセットや人間による評価が必要です。これは企業や研究機関にとって、時間とコストを要する工程となります。

具体的な活用シーンの例

カスタマーサポート

通信会社やECサイト、銀行などのカスタマーサポートに、命令調整済みモデルが導入されるケースが増えています。従来型のチャットボットでは、決まったFAQに対してのみ回答する単純な仕組みが多かったのですが、命令調整されたモデルなら、想定外の質問にもある程度臨機応変に応じられます。たとえば、「○○というサービスの解約方法を教えてほしい」「××プランの月額料金はいくら?」といった質問に対して、自然な対話形式で即座に回答できます。

コンテンツ生成とライティング支援

ブログ記事のアイデア出しや構成作り、SNSや広告文の作成にも使われています。命令調整済みモデルなら「この商品の特徴を3つ挙げて魅力的に紹介して」「スポーツに興味を持たせるためのキャッチコピーを作って」など、指示を細かく与えることで、より洗練された文章を得ることが可能です。ライターの時間短縮にもつながるため、企業のマーケティング部門などで重宝されています。

プログラミング支援

GitHub CopilotやOpenAIのCodexのように、開発者がコードを書く際にリアルタイムでサジェスト(提案)してくれるツールとしても活躍しています。命令調整済みモデルであれば、「Pythonでファイルを読み込んで特定の行だけ抽出するコードを書いて」「JavaScriptでWebサイトのスクロールイベントをハンドリングするサンプルを教えて」などのリクエストに応じて、即座にコードを提示してくれます。

専門領域(法律・医療など)

法律文書のドラフトをAIが生成し、弁護士が最終チェックを行うケースが少しずつ増えています。医療領域でも、症状の可能性をリストアップするなど、初期診断のヒントとして使われることがあります。ただし、これらの分野では誤情報が重大な結果を招く可能性が高いため、現段階では人間の専門家の監督が必須です。

メリット・デメリット比較

基盤言語モデルのメリット

基盤言語モデルのデメリット

命令調整済みモデルのメリット

命令調整済みモデルのデメリット

モデルの調整手法と技術的ポイント

微調整(Fine-Tuning)

Baseモデルに特定のタスク用のデータセットを追加学習させ、感情分析や機械翻訳、要約などに特化させる手法です。これにより、特定タスクで高い精度を発揮できますが、別の種類のタスクには対応しにくくなる場合があります。

命令調整(Instruction Tuning)

「ユーザーの命令・質問→模範解答」のペアデータを用いてモデルをトレーニングし、自由度が高い対話・QA能力を獲得させる手法です。AIに対して「自然言語でこうしてほしい」と述べるだけで、その意図をくみ取る能力が向上します。ブログ記事やチャットボットなど、多様な要望への対応が求められる場面で有効です。

RLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)

命令調整のさらに一歩先を行く方法で、人間のフィードバックを強化学習の形で取り入れます。たとえば、モデルが生成した複数の回答を人間が評価し、その評価結果をもとに「望ましい回答」を出すようモデルを微調整します。これによって、ユーザーが求める倫理基準や安全性を考慮した出力を促すことが可能になります。

プロンプトエンジニアリング

モデルに与える「命令文(プロンプト)」の書き方を工夫することで、出力結果の質を向上させる技術です。たとえば「この文章を日本語に翻訳して」よりも「以下の英語文章をできるだけ自然な日本語で翻訳し、さらに重要なポイントを3つ挙げてください」と書くほうが期待する結果を得やすくなります。これは命令調整済みモデルであっても効果的です。

今後の展望と進む方向性

規制や倫理面の課題

大規模言語モデルが生成する誤情報や差別的表現、プライバシー侵害などのリスクが社会的に問題視されています。研究者や企業は、命令調整やRLHFを活用し、こうしたリスクを抑制する手法を模索していますが、完全な解決には至っていません。今後は、国や国際機関レベルでのルールづくりやガイドライン整備が進んでいくでしょう。

マルチモーダル化への期待

テキストだけでなく、画像・音声・動画などさまざまな形式の情報を統合的に扱うマルチモーダルモデルの研究が盛んです。これにより、ユーザーが画像を見せながら説明を求めたり、音声コマンドで命令を与えたりといった、さらに自然で多彩なインタラクションが可能になると期待されています。

オープンソースコミュニティの発展

OpenAIだけでなく、MetaやMicrosoft、Hugging Faceなどが、多様な言語モデルを公開・提供しています。オープンソース化によって、多くの研究者や開発者がモデルの内部構造を詳しく調べたり、独自のデータセットで微調整を行うことが容易になります。こうした活動は革新的な応用例を生む一方、モデルの誤用やバイアスが助長されるリスクもあり、コミュニティ全体として責任ある運用が求められます。

まとめ

本記事では、基盤言語モデル(Base LLM)と命令調整済み言語モデル(Instruction-Tuned LLM)の違いを中心に、両者の特徴や活用方法、メリット・デメリットなどを解説しました。

大規模言語モデルの活用範囲は日々広がっています。企業のカスタマーサポートやコンテンツ生成、プログラミング支援、専門領域でのドキュメント作成など、今後もさまざまな活用事例が出てくるでしょう。一方で、安全性や倫理面の課題に対応するための技術的アプローチやルール作りも欠かせません。

プロジェクトやサービスの目的によっては、汎用性の高い基盤言語モデルを使うほうがよい場合もあれば、命令調整済みモデルを導入したほうが即戦力になるケースもあります。自分たちのニーズに合わせて、どのようなモデルが適切かを見極め、必要であれば命令調整や微調整を行うことで、AIの可能性を最大限に引き出すことができるでしょう。

AI技術はまだまだ進化の途上にあり、マルチモーダル対応やさらなる性能向上も期待されています。研究者やエンジニア、ビジネスパーソンが協力し合い、よりよいモデルの運用とサービス開発を続けることで、私たちの生活はますます便利で豊かなものとなっていくはずです。ぜひ本記事を参考に、大規模言語モデルを使いこなし、次世代のイノベーションにチャレンジしてみてください。

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